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分析論的領域と説明概念

田島正樹
TAJIMA Masaki

(2)意志的行為と注意的知覚の平行関係(承前)注意的知覚が、それ自身測定行為にも比すべき意志的行為としてしか有り得ないのと同様に、意志的行為はまた、注意的知覚を欠いては有り得ない。例へば、銃で的をねらふやうな場合を、意志的行為の代表的モデルとして考へてみよう。我々は、的へ向けて銃口と銃眼とをうまく一直線に結ぶやうに、銃口を左右上下に可能な限りの微調整をしようとするだらう。それは丁度、「角度はこれでよいだらうか? …いや、右にずれてゐるやうだ…いや今度は少し左へ傾きすぎた…」などと、腕や心に自問する過程のやうである。知覚と同様、行為もまた、微小な問ひのざわめきを含んでゐるのである。そこには、的確に的をねらふために適切と言ひ得るやうな角度があるだらう。また、この理想的な角度を支へ、それへと銃身を微調整するために、我々が取らねばならない理想的姿勢といふものがあるだらう。我々はまづ、この理想的な姿勢へと、できるだけ自分の身体の構へを近づけようとし、この姿勢を通して、さらに銃身に理想に近い角度を与へるために努力せねばならない。そして、この様な「努力」が可能であるためには、道具や自分の身体を制御して、与へられた目標へ接近するために、先行する行為の成果がただちに知覚され、知覚がつぎの運動へとフィードバックされるといふ風に、知覚と行為が、ひとつのループを成してゐなければならない。その事によって、自分が目標に対してどれだけ接近してゐるか、またさらに接近するためにつぎにどうせねばならないかがわかるのである。手を伸ばして灰皿を取るといふやうな単純な行動ですら、手と灰皿の距離を知覚目測し、それを次の行為へとフィードバックしながら、徐々に手と灰皿の距離をちぢめていくといふやうな、微小な行為と知覚的問ひかけとの積分として成立してゐるのである。

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