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ブックの説明

何故「ムカサリ絵馬」は怖い話になったのか
―山形県村山地方の供養習俗の変遷に関する-考察―
How did “Mukasari Ema” grow into a scary folktale
A study on the historical transformation of the customs of service for the dead in Murayama area of Yamagata Prefecture

山本 亜季
YAMAMOTO Aki

「ムカサリ絵馬」とは山形県村山地方に分布する死者供養習俗である。山形などの方言である「ムカサリ」は結婚のことを指す。未婚の死者と架空の伴侶を婚礼姿で描いた絵馬を、寺社に奉納することからこの呼称が定着した。しかし、近年ではこの習俗がホラー作品を中心にフィクションやコンテンツのテーマとして取り上げられ、「生者を描きこむと死者に連れていかれてしまう」という禁忌の面を強調されるようになった。本来「ムカサリ絵馬」とは供養習俗であり、死者を傷つける力はない。にもかかわらず、何故「ムカサリ絵馬」は本来の習俗と乖離した形で怖い話になったのだろうか。調査の結果、この現象は本来異なる習俗である「冥婚」との同一視、「禁忌」という一部のみで共有されている認識が全体の共通認識であるかのように思われていること、創作者が「この作品はフィクションである」という前提を盾に本来の習俗の説明や創作との違和を説明していないことなど、創作者にとって都合のいい部分を抜き出し、強調して描かれたことが原因であるとわかった。習俗をテーマにコンテンツを作ること自体は、伝統や信仰に興味のない若者でも触れやすくなるというメリットなどもあるため、一概に悪とは言えない。だが、「ムカサリ絵馬」のように一面だけを誇張され、その認識が訂正されないまま拡散・定着することによって生まれる誤解や、本来の習俗との乖離も少なくない。習俗を調べ、記録する研究者と、創作によって新たに付加価値を与え、広めることのできる創作者…この二者の間にある認識のギャップを埋めることにより、様々な文化や習俗の価値観をアップデートし、継承や保存の一助とすることができるだろう。

Keywords

ムカサリ絵馬、死者結婚、コンテンツ化、禁忌、供養

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