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東南アジア古陶磁の特性について(2)
ー染付資料の再測定と環濠都市遺跡出土資料の化学分析一

會田 雄亮
AIDA Yusuke
松田 泰典
MATSUDA Yasunori

1. はじめに
日本における東南アジア古陶磁の渡来は14世紀におけ
る呂宋壷が知られているが、室町時代後期から桃山時代
にかけて、ベトナム、タイの古陶磁が伝来し、それぞれ
安南、宋胡録という呼称で茶の世界に登場してくる。し
かしながら東南アジア諸国古陶磁研究は、長い間陽の当
たらない分野でもあったが、近年その関心が世界的に高
まり、わが国にも少なからぬ量の東南アジア古陶磁が招
来されている。とくに海底探査技術の発達は、15~!7世
紀交易沈没船の引き上げを可能にし、大量に新資料の発
見をもたらしている。
最近ではベトナム・ホイアン沖で発見された16世紀陶
磁器運搬船とみられる沈没船の引き上げ調査が1997年か
ら99年にかけて行われ、実に15万点にのぼるベトナム古
陶磁が発見されている。
このような歴史的背景をもっている東南アジア古陶磁
であるが、著者らは以前からこれらの材質面、すなわち
釉薬や素地の化学成分に注目し分析的な研究を行ってき
た1) (注) 。本論文は、この一連の研究のなかでつぎの二
つのテーマについて報告するものである。
I 東南アジア染付陶片資料の釉薬青色部分における
元素組成の再分析
I 環濠都市遺跡出土陶磁資料の化学分析
Iについては、本学紀要4号に報告した分析結果°(以
下前報と呼ぶ)を精査した結果、染付部分を有するかな
りの陶片より青色発色の主要元素であるコバルトが検出
されなかったため、その結果に疑義を抱き実施された再
測定の結果報告である。例えベトナム独特の黒っぽい染
付とはいえ、コバルト等の発色元素が全く含有されてい
ないことはない、との推察に基づき、分析方法を改善し
再度測定を実施した。
一般的に染付の発色に関与する成分としてはコバルト、
マンガン、鉄が考えられるが、マンガン、鉄での発色で
は明度や彩度の高い色調は得られない。また、コバルト
が全く関与しない染付についても確認する必要があった。
そこで、今回の測定では、下記の改善した方法によって
前報のうちコバルト、マンガンの成分に的を絞って、含
有の有無を再検討した。
Iについては、大阪府堺市の堺環濠都市遺跡出土の「青
花双龍文輪花皿」および「白釉盤」の化学分析結果であ
る。とくに前者については日本からの「特注品」説、あ
るいは「日本国内焼成」説など議論の対象になっている
一群の青花磁器と同種の発掘遺物である。また制作時代
を裏付ける発掘状況から、その成分分析結果はこの問題
に重要な一石を投ずるものと考えている。

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