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学術調査 Ⅳ 近現代彫刻作品の保存修復
―阿部誠「バスの中で」を対象として―

20世紀以降、日本には西洋彫刻の伝来により、
表現主義を初めとした新たな表現形態が普及し、
作品に用いられる素材も金属や石、ガラスなど多
様化が進んだ。特に工業技術の発展に伴い、合成
樹脂など素材利用の多様化は顕著である。また、
技術的練熟でなく情感表現や新規性を求める傾向
は多素材を用いた実験的な試みを促進させ、結果
として保存修復の視点からすると作品は以前には
見られなかった未知の劣化、損傷を負うリスクが
ある。
近代以降において、芸術作品や文化財は施設内
などの比較的良好な場所で保管がなされることが
多く、収集の対象は限られたものであった。施設
外の多くの芸術作品、文化財は個人宅などにて保
管がなされ、温湿度変化や生物被害への対策を万
全にすることは困難であり、適切な環境下では見
られない著しい劣化損傷を負う可能性がある。近
現代の芸術作品においては、素材や技法の多様性、
保管環境上の問題が組み合わさることで、より複
雑で多くの劣化、損傷が生じ、保存修復の方法も
新たな見識が求められている。
本研究は山形県出身の彫刻家、阿部誠の制作し
た「バスの中で」を修復対象とした。複数の彫刻
群から構成される本作を展示活用に繋げることを
研究全体の目標とし、科学的・物理的な側面から
劣化状況、劣化要因を把握・特定することとした。
そして、これまで検討されてこなかった“鉄汚染”
を中心とした損傷に対して、現代の保存修復とし
てより適切な科学的な方法を新たに検討する。

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