総ページ数

P13

ブックの説明

押出遺跡における昆虫遺体を用いた古環境変遷の考察
Used remains of insects in Ondashiruin transition
in the ancient consideration

佐藤 恒介
SATO Kosuke

押出遺跡は、山形県高畠町に所在する縄文時代前期の遺跡である。大谷地と呼ばれる泥炭湿地帯の中に位置し、人々は湿地の中に生活の場を設け、約100年間そこで生活を営んでいた。この遺跡はその立地から、有機物の残存率が高く、これまでに状態の良い試料が多く検出され、古環境の様相が明らかになりつつあるが、昆虫遺体を用いた古環境研究は殆ど行われていない。そのため本稿では、押出遺跡より産出した昆虫遺体の分析結果を基に、押出遺跡の古環境と、その変遷について述べる。結果、押出遺跡の4つの層で採取した土壌サンプルから合計92点の昆虫遺体群が検出された。遺跡構築以前の層からは、全体の8割を占める73点の昆虫遺体が検出され、コウホネネクイハムシDonacia ozensis Nakaneを含む湿地性昆虫が多く見られたことから、コウホネが繁茂する湿地が存在していたと考えられる。遺物包含層からは昆虫遺体の検出が減少し、検出された昆虫遺体はスジコガネ亜科Rutelinae等の陸生食植性昆虫に限られ、ヒトが介在した植生の存在を示唆する結果であった。ヒトが去ったのちの層からはエゾオオミズクサハムシPlateumaris c.babaiを含む湿地性昆虫が検出され、周辺の植生に変化が見られたことを示している。更に時代が経過すると、低木に依存する昆虫の検出が見られるようになる。押出遺跡で生活が営まれていた時期と、その前後では検出された昆虫遺体群の様相が異なり、昆虫遺体分析の結果のみで考察すれば、人々の生活圏では除草や植栽等の植生管理が行われていたと考えられ、古環境の変遷のなかでヒトと自然の関係性を示す結果が得られた。

Keywords

押出遺跡、昆虫遺体、古環境、縄文時代前期、昆虫考古学

PDFはこちら

PDFはこちらより閲覧できます。